「Evolution」展
輪島在住の漆作家、スザーン・ロスさんが20年以上に渡って試行錯誤を繰り返しながら編み出してきた独自の技法を、その発想や創造の過程とともに紹介する企画展です。
異なった文化的背景を持つロスさんがどのように漆芸に取り組み、日本人とは別の視点を作品に投影してきたか、どうぞじっくりとご覧下さい。
展示作品についての作者解説
スザーン・ロスさんプロフィール
1984 イギリスで美術とデザインを学んだ後、来日。漆の勉強に入る前に墨絵、書道、生け花、着付け、印鑑作りを修得
1990 大和日英基金の奨学金を受け、輪島に転居
輪島県立漆芸研修所の専修科に入学、重要無形文化財保持者の前史雄先生はじめ書先生方
から、きゅう漆、蒔絵、沈金を学ぶ
1992 専修科を卒業後、専門的な普通科に再入学し、蒔絵を中心に学ぶ一方、製図、デザイン、水彩、お茶、生け花にも取り組む
1995 普通科卒業
2004 聴講生として輪島県立漆芸研修所の普通科きゅう漆科に入学 (2006年3月まで)
2006 国際漆展入選、輪島漆芸美術館に展示される
聴講生として輪島県立漆芸研修所の普通科蒔絵科に入学し、1年間蒔絵の技法を更に研究する
2007 石川県伝統工芸展入選
2008 9年間の輪島県立漆芸研修所生活を終える
第64回現代美術展入選
石川県伝統工芸展入選
第14回金沢城兼六園大茶会展にて奨励賞を受賞
「海外で受容される漆芸品-輪島塗の技術と漆文化の研究」の申請が、文化庁文化財部伝統文化課から採択され、小森邦衛先生の指導を受けながら、平成20年度芸術団体人材育成支援事業を受容する
2009 巡回展 国際漆展・石川 2009 輪島展
第65回現代美術展入選
第50回石川県伝統工芸展入選
2010 第66回現代美術展入選
第51回石川県伝統工芸展入選
第16回金沢城兼六園大茶会展にて石川県知事賞を受賞
2011 第52回石川県伝統工芸展入選
国際漆展入選
展示
<ロスさんからのメッセージ>
ロンドンの美術館で日本の江戸時代の美術工芸作品を見て以来、漆は私の情熱の対象となりました。私はその時までそのような美しさにふれた事がほとんどありませんでしたが、私の心をとらえて離さなかったのは、空間の中で星のようにきらめく金や貝の象嵌が施された漆の持つ豊かで落ち着いた奥深さでした。
私は、愚かにも3カ月から6カ月で漆工芸を修得できるであろうと考え、1984年に日本にやってきました。漆を何とか習得しようと努力しつつ早20年がたちましたが、その20年間で私が本当に学んだものは、自分自身についてでした。この漆という興味の尽きない工芸の分野において私が一つ一つ地道に発見していくと、その下に更に尽きない幾つもの学ばねばならないもの、興味深いものがある事がわかりました。私は、漆のすべてを自分のものにしようという想いを断念し、その代わりにこの芸術が美や神、そして自分自身を探し求める、生涯をかけた探究であると実感しています。やがていつかは、忍耐によって漆のすべてが明らかになる日が来る事でしょう。
<ロスさんのワークショップ> スザーン・ロスさんの指導によるワークショップが3月31日(土)に予定されています。詳細については、工芸館HPでお知らせ致します。お楽しみに!
- 会期:
- 2012年2月3日(金)- 2012年3月31日(土)
(チラシのご案内は最終日が3月28日になっていますが、会期は31日まで延長されています) - 展示室:
- 2F 第3展示室
- 作品数:
- 20点
展示作品についての作者解説
- グループ1
- これらの作品は、輪島塗技術保存会を通じて文化庁の助成により制作されたもので、その制作にあたっては重要無形文化材保持者の小森邦衛先生の指導を受けた。研究テーマは、海外での使用に耐えられる漆芸品」で、気候の違いにより生じる歪みや割れ、継ぎ目の剥離などといった従来の制作方法では生じやすい問題を回避するためにはどのようにボディの成形を行えばよいのかという問題を提示した。私は選んだのは以下の4つの方法であった。
- 1.張り抜き "Every Cloud"
- 石膏型に12-15層の和紙を張る。型を抜き取ると、気候の変化に左右されないボデ ィが成形される。このボディは軽くて丈夫。ヨーロッパのパピエマシェ(張り子) と同様の技法。
- 2.乾漆 "Otafuku"
- 石膏で型を作り、その上に、漆に米粉を混ぜてペースト状にしたものを用いて麻布を貼り重ねる。必要な厚さに達したら、型を外し、その他の部分を成形する。繊維でで きている為、気候の変化にも左右されない。
- 3.曲げわ "Tray"
- この技法は、ヨーロッパをはじめ他の多くの国々でも使われているが、薄板を型に沿って曲げていく事により成形する。この技法の利点は、木を薄い板状にし、継ぎ手の部分を接着するという成型方法のため、木の質感を残したまま、本来木が持っている撓もうとする性質を抑制する事が出来るという点である。
- 4.挽物 "Tiered box"
- 堅く、よく乾燥させた木地目の詰んだ柾目の木をろくろで挽いて成形する。継ぎ目がない為(一つの木材から挽く為)、堅牢なボディを成形する事が出来るが、気候の急激な変化により撓んだり割れを生じる事もある。その為、素材となる木の選択を注意深く行い、表面全体に麻布を着せて強化する事で、ある程度それらを防ぐ事が出来る。更に強度を増す為、この重箱には太めの綿糸が巻きつけられている。
- グループ2
- 最初にレースを使ってみようと考えたのは、友人への結婚のお祝いとしてペアの椀を制作しようと考えた時だった。ペア椀は、どちらも同じ大きさと形ではあっても、それぞれ見分けがつくようにしたかった。そこで、通常は強度を増すために麻布でする縁の布着せをレースでしてみる事にした。女性用の椀には、高台にもレースを貼った。レースの効果が非常に面白かったので、様々な作品に応用してみた。(MP3 player holder)その後、使用に耐えられるような強度を持ったレースを使った作品が作れるかどうかを試してみようと思い、ブローチを作ってみたが、レースの縁の処理に満足がいかなかった。そこで、レースの縁をしっかりとさせるために、縁に沿って細い麻糸をつける事にした。レースの香合)レースの幅と丈夫さには限度があるのでレースだけで、大きな作品を作ることは不可能だが、乾漆で小窓を開けたボディを成形し、そこにレースを嵌め込んで大きな作品を作ってみた。(Shadow and Light)
- グループ3
- これらの作品は私の母国、イギリスの文化に触発されて制作した作品である。海中に沈んだ財宝の伝説や話をこよなく愛してきた。イギリスの銀細工師は世界でも最高のレベルにあるので、それに匹敵するような平凡ではない私の大好きな財宝を反映させた作品を銀で作ってみたかった。私が見つけた答えは、蒔絵を加飾で用いるのではなく、ボディの色として使う事であった。蒔絵を用いることで和紙や布目、レース等の質感を出すことができ、ボディが木製のため軽く、且つ複雑なデザインを用いる事も出来る。イギリスの銀細工師が作る事が出来なかった物で、イギリスと日本の文化のうまく融合した作品が作りだせたと思っている。
- グループ4
- "Mirth" 骨酒をすすめてくれた友人との飲み会の後、この作品のデザインが思い浮かんだ。その為、この片口は魚の形を考慮に入れて楕円形をしており、金で液体のデザインを入れてある。ボディには軽い桐を使っているが、一番壊れやすい場所の強度を上げるために足と注ぎ口には朴という固い木を使っている。強度を増すために、表面全体に麻で布着せをしており、注ぎ口のそれは二重にしてある。 "Woodland leaf"この作品のデザインは、朝降った雨のために下を向いてしまった山に自生する先端が尖った葉を見た時に閃いた。その葉の垂れ下がった先端を3本目の足にする事に大変苦労した。乾漆の作りでは強度が足りなかったので、補強が必要だった。アルミの打ち出しを試してみたが、曲線が多いこのデザインでは望むような形を成形する事が出来なかった。最終的に、私が選んだのは驚くほど強度があり、好きな形に簡単に成形できるカーボン・ファイバーだった。加えて、この素材は金属に比べて、漆の定着が非常に良かった。
スザーン・ロスさんプロフィール
第64回現代美術展入選
石川県伝統工芸展入選
第14回金沢城兼六園大茶会展にて奨励賞を受賞
「海外で受容される漆芸品-輪島塗の技術と漆文化の研究」の申請が、文化庁文化財部伝統文化課から採択され、小森邦衛先生の指導を受けながら、平成20年度芸術団体人材育成支援事業を受容する
第65回現代美術展入選
第50回石川県伝統工芸展入選
第51回石川県伝統工芸展入選
第16回金沢城兼六園大茶会展にて石川県知事賞を受賞
国際漆展入選
- 2005
- 三越デパート展示会 (東京)
- 2008
- 第26回朝日現代クラフト展 (東京および横浜)
- 2009
- 三国際漆展・石川 2009
第67回東京インターナショナルギフトショー - 2010
- 漆と触れ合う20記念個展 (大阪・ギャラリーあすか)
- 2011
- 高岡美術館展示講演会 (主催: 読売新聞)
個展(広島市・ギャラリー・バザレおよび名古屋市・東急ハンズ)
「飛躍する輪島の漆芸作家たち」(輪島漆芸美術館)
私は、愚かにも3カ月から6カ月で漆工芸を修得できるであろうと考え、1984年に日本にやってきました。漆を何とか習得しようと努力しつつ早20年がたちましたが、その20年間で私が本当に学んだものは、自分自身についてでした。この漆という興味の尽きない工芸の分野において私が一つ一つ地道に発見していくと、その下に更に尽きない幾つもの学ばねばならないもの、興味深いものがある事がわかりました。私は、漆のすべてを自分のものにしようという想いを断念し、その代わりにこの芸術が美や神、そして自分自身を探し求める、生涯をかけた探究であると実感しています。やがていつかは、忍耐によって漆のすべてが明らかになる日が来る事でしょう。
<ロスさんのワークショップ> スザーン・ロスさんの指導によるワークショップが3月31日(土)に予定されています。詳細については、工芸館HPでお知らせ致します。お楽しみに!
2012.02.03 Traditional Art & Craft of Ishikawa